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本当は恐いグリル童話U

4
スモール・ソーサーのビッグ・メランコリー
 
 
スモール・ソーサー后をずっと悩ませていることがございました。それは后の部屋の奥の奥の、そのまた奥の、秘密の鏡の間が関係することでした。
ここにはお輿入れの時に生家より持ってきた鏡がありました。大きな楕円の鏡でフチには金の飾りと宝石がちりばめられているものです。
これは魔法の鏡でスモール・ソーサー后の問いかけに答える不思議な鏡でした。
 
輿入れのあとまっ先にその時は妃であったスモール・ソーサーは鏡に聞きました。
「この王国で一番素晴らしいのはだあれ?」
「それはスモール・ソーサー様です。ですが、おなじくらいかそれ以上にお后様が素晴らしい」
スモール・ソーサーは義理の母である后を憎く思ったのです。
 
月日がたち、王子ブルーギルは王になり、スモール・ソーサーは后になりました。
后は再び鏡に問いかけます。
「この王国で一番素晴らしいのはだあれ?」
「それはスモール・ソーサー様です。最も高いくらいについた女性です。王よりも強い方です」
今度は后も満足しました。
 
間もなくサン・ドッコイ・コラショという町の娘ゴッキがフンミ・アキシーノと結婚することとなりました。
お后は急いで奥の奥の奥の鏡の間へ行き問いかけます。
「この王国で一番素晴らしいのはだあれ?」
「それはスモール・ソーサー様です。ゴッキ様は足元にも及びません」
その答えを聞いて、「ゴッキとはうまくやれそうだわ」と思うのでした。
 
さらに月日がたち、王子ナール・ジュールが妃を迎えることとなりました。お相手はとても美しく聡明なマーサ様です。きっと素晴らしい妃になるでしょう。国民はみな喜びました。
 
またもや后は鏡に尋ねます。
「この王国で一番素晴らしいのはだあれ?」
「(またですか?)それはスモール・ソーサー様です。しかし、マーサ様はその何倍も素晴らしいお方です」
キイイィと甲高い声をあげ后は怒りました。そしてマーサ妃に対抗心を燃やすのでした。
 
なかなか子宝に恵まれなかったマーサ妃に対し、后は優越感を持っていました。
それもつかの間、マーサ妃がご懐妊なさったのです。
産まれてきたのは可愛らしい女の子でした。雪のように白い肌と黒曜石のように輝く瞳の元気な赤ちゃんでした。
ナール王子はアイコディーテと名付け、自ら世話をなさるなど大変な可愛がりようでした。
 
「まあ、女の子ではさぞ民もがっかりしたことでしょう。わたくしが慰めてあげましょう」
后は意気揚々と王と二人、民の様子を見て回りました。
ところがどうでしょう。
民はマーサ妃がお子様を産んだことを大層喜んで、町はまるでカーニバルのようににぎわっていたのです。
 
慌てて城に戻り、例によって例のごとく后鏡に言いました。
「この王国で一番素晴らしいのはだあれ?」
「スモール・ソーサー様です(って言ってるじゃん)。しかしマーサ様の方が何倍も素晴らしい方です(前にも言ってんじゃん)。そのお子様アイコディーテ様はいずれ世界中のだれよりも素晴らしい方となるでしょう」
「何ですってぇぇ」
妃は怒り心頭です。
 
夜中にラーメンをすすりながら、どうしてくれようかと考えていました。
そして、一つのことを思いつきました。
「誰かっ、リンゴを持ってきなさい」
気のきいたメイドが綺麗に皮をむき、8等分にしたリンゴを持ってきました。
「今日は剥かないでいいのよっ。丸ごと持ってきなさい」
「そ・そ・それが・最後のリンゴでございます」
震えながら言うとメイドは慌てて逃げて行きました。
仕方ないので后はその林檎をたいらげ、城の地下へ向かいました。
 
それからしばらくしてのことです。ハヤマの別荘に王族が集まりました。后はこの機会を逃すまいとしました。
この時、こっそり地下に隠しておいた薬を御用達のレディー・スマープに造らせた髪型帽子に隠し持っていたのです。
この薬は鏡と一緒に持ってきたもので、口にしたものの魅力を奪う恐ろしいものでした。本当はリンゴに仕込みたかったのですが、メイドが皮をむいてしまったのであきらめました。
しかもほんのわずかしかなかったため今の今までとっておいた薬ですが、ついに使う日が来たのです。
 
后は海辺で打ち上げられた海草を拾うとこっそりと薬を振りかけました。それからまだ赤ちゃんだったアイコディーテ姫にそれを渡したのです。
マーサ妃は后を疑いもせず、姫を可愛がって下さることを喜びました。
 
しかし、アイコディーテ姫はそれを華麗にぽいなさったのです。
海藻は偶然にもスモール・ソーサー妃の胸に当たり、粉状の薬が后の鼻に吸い込まれてしまいました。
 
それ以来、マーサ妃とアイコディーテ姫の人気は后の人気を軽く上回り、后は深い敗北感に包まれたのでした。
そして答えを聞くのが恐ろしくなり二度と鏡に問いかけることはなくなったそうです。
 
 
※サン・ドッコイ・コラショ(通称3DK)…ゴッキ公爵夫人の生まれ故郷。
この町には変わった風習があり、墓参りの際には足を開き、腰をやや落とし「聖なるドッコイ・コラショ」を讃えるのだそうです。もちろんゴッキ公爵夫人もそれに倣いました。
 
※レディー・スマープ…スモール・ソーサー后の超トップ・シークレットなお友達

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Last updated: 2012/6/25