サーヤ・ノワゼット夫人が結婚するかなり前にお気に入りのお話がありました。
それは城に閉じ込められた姫君が「おじさま」と呼ぶ怪盗とその仲間に救い出される物語です。
なぜそう思ったのか誰にもわかりませんが、サーヤはその姫君が自分の分身のように感じたのです。
髪形をそろえるとますますその姫君に似てきたように思ったのでした。
メイドたちはおしかりを受けることを恐れて「似ておりません」という言葉を飲み込んだものでした。
そしていつの日か「おじさま」が来て自分を解放し、物語の姫君のように世界中から愛されるようになると信じて疑いませんでした。
サーヤは閉じ込められているわけでもなかったのですが、なぜ「おじさま」は助けに来てくれないのだろうと思うようになりました。
そして答えを見つけました。
姫君は無理やり結婚をさせられそうになり、式場に「おじさま」が助けに来るのです。
「結婚しなきゃ。ただでさえ負け犬なんて言われているんだもの。意地でも結婚してやるわ」
それから婿探しが始まりました。
ところが目をつけた殿方は次々と留学したり、結婚したり挙句に泣いて逃げたりと散々な結果に終わりました。木彫りの鳥をプレゼントしてもだめでした。
「そうね。姫君が結婚させられそうになる相手は年上の悪人ですもの。でもなかなかそんな人は見つからないわ」
サーヤは王宮につくられた部屋で姫君の物語を見ながら考えました。
「そうだ。悪人ならいい人がいるわ」
しっかりと物語を見終わってからサーヤはフンミ・アキシーノ公爵の元へ行きました。フンミもそうですが、(悪人の)ゴッキならよい相手を探してくれるでしょう。
アキシーノ公爵夫妻が無い知恵とほとんど無い人脈で探したのは学問所の友人でした。この方ならばサーヤも気心が知れています。
「これでサーヤは追い払えるわ」
ゴッキは嬉しくて満面の笑みを浮かべていました。
婿探しをするうちにサーヤは焦っていました。その気になれば引く手あまたと思っていましたが、相手がドン引きしてしまうなど思いもよらないことだったのです。
そこで逃げられないうちに急いでノワゼット氏との結婚を決めました。
しかしそこには問題が一つありました。
相手は爵位をもたない民だったのです。
「じゃあ、男爵にしてあげる」
何も考えていないブルーギル王は簡単に決めてしまいました。さすが空気よりも軽いお方です。
地味に婚約をし、地味に結婚式をし、地味に王宮を出たサーヤでしたが、ふと結婚を急いだ理由を思い出しました。
「おじさまが来ないまま結婚式が終わってしまったわ。なぜ助けが来なかったのかしら。何がいけなかったのかしら?」
夫であるノワゼット氏のことはさておいてサーヤは考えました。姫君と同じ髪型、同じ(様な)ウェディングドレスなのに「おじさま」が来ないのは城で「おじさま」にあっていないからだわ、と思いました。
「お城へ行かなきゃ。王は折々帰っておいでとおっしゃったんだもの。今が折々だわ」
勝手な解釈をし、サーヤは折々どころかしょっちゅう城へ帰るようになりました。もちろんその際は肩に木彫りの鳥「フジコちゃん」を乗せています。
「これでバッチリね。少し間違ってしまったようだけど、ドンマーイン」
そう言ってサーヤはにたっと笑うのでした。
その後、今に至るまで「おじさま」は現れていないということです。
※アニメアニムス…アニメの中に存在する理想を現実に(強引に)投影することと、現実に存在しない理想をアニメに求めること
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