| ホーム | お話 | お話・第二集 | 公演ポスター | オハラ座の怪人T | オハラ座の怪人U | 夏の扉テーマソング | 夢十夜 |
| 登場人物T | 登場人物U-1 | 登場人物 U-2 | 掲示板 | プロフィール |

本当は恐いグリル童話U

25
サルの手

ある日、公爵家にタッツー・サールノワックセー・イ・カワスマが訪れました。
タッツーはやっと手に入れたある物を見せびらかしに来たのです。
 
「タッツー、随分手がしなびたわね。あれ?3本あるわ?」
タッツーがそれを出すなりゴッキが言いました。
「そりゃあサルの手だ」
「タッツーったらサルだったのね」
「その手だけがサルじゃ」
 
自信満々にタッツーのしなびた手に握られたそれは乾燥して茶色になった小さな手でした。指は3本だけで軽く握られていていました。
ゴッキがよく見るとタッツーの手よりは毛深そうでした。
「あたしゃヘビも怖くないのよ。驚かそうったってそうはいかないわ。どうせ持ってくるなら美味しい物か高い物にしてよ」
ゴッキは自慢の鼻でクンクンと臭いをかいでみました。少しかびたような臭いでした。
「これはな」とタッツーが言います。「不思議なサルの手じゃ。指を折ると願いがかなうというシロモノじゃ」
 
タッツーはニヤニヤしながらサルの手を見つめていました。よくこんな気味の悪い物を見つめられると思いましたが、ゴッキはあまりにも多くの欲望を持っていましたのでしだいにそのサルの手が欲しくなりました。
「まずヒーソクリフを王にして、ドレスをたくさん作って、えっと、それから真珠、でっかい真珠が欲しい」
「いっぱい持っとるじゃろうが」
「足りないわ。ホットケーキくらいでかいのが欲しい」
 
「ホットケーキッ、わたいも食べるよ。クリームたっぷりのせてねっ」
どこからともなく飛んできたマコリンペリーナが言いました。
「さすが私の娘、欲望に忠実ね」とゴッキ。
「蜂蜜まみれのホットケーキ、すきぃ〜。あっ、でもあげ芋もすき~」
と、そこへカコポリーナがヒーソクリフを連れてきました。
「お姉さみゃ、ヒソを押し付けないでよ」
二人ともタッツーに挨拶をするのも忘れていました。
 
マコリンペリーナは美味しい物をタッツーが持って来ていないかじろじろと見ました。タッツーの手に握られている茶色のものを見つけるとそれを取り上げました。
「焦げたフライドチキンかと思ったよ〜。これ、おいしい?」
「それはサルの手じゃ」
「珍味だ、早く食べよう」
どこまでも食欲に忠実なマコリンペリーナなのでした。
 
タッツーがサルの手を怪しい行者から手に入れたとか、どんな願いもかなえるとか興奮気味に話している時にもマコリンぺリーナはサルの手を離さずに見ていました。
タッツーが返せとばかりに手を伸ばしてもそれをかわしていました。
見かねたゴッキが注意しました。
「マコリンペリーナ、それを返しなさい。ヒーソクリフを王にするのよ」
「いや、丸ごとフライドチキンとチョコレートケーキを食べるぅ」
「何をいっとる。それはわしのじゃ。地位と名誉と栄光を願うのじゃ」とタッツー。
 
しかしマコリンペリーナはそんな声を聞いてはいませんでした。耳にも脂肪がついてしまったのかもしれません。
「わたいはピースするのも好きぃ。ピースは指2本だよぉ~。えいっ」
一本の指を無理やり伸ばそうと力を入れた途端、ぽきんと折れてしまいました。
するとどうでしょう。
美しい装飾を施された天井からぼとぼとと熱い何かが降り注ぎました。
 
「あっちぃ、あんた何を願ったのよ」
ゴッキが落ちてくる物から逃げながら聞きました。
「あげ芋〜大好き~」
マコリンペリーナが熱した油の熱さから逃げながらもあげ芋を拾い、口に運びました。
揚げたての芋は油とともに落ちてきてそこら辺をギトギトにしながら止まることを知りません。
「お姉さみゃ、止めてよ。チョー熱いよ」
「だめよ、願いがへっちゃうわ」
ゴッキの脳は欲望のためにフル回転して冷静な判断をし、娘からサルの手を取り上げました。ところが油で滑ってつるんと飛んでいきます。
それをタッツーが掴み、またつるんと飛びます。さらにカコポリーナ、マコリンペリーナ、ゴッキと繰り返しサルの手を逃がしてしまいました。
芋はその間も落ち続け足首が埋まりそうです。熱いし滑るし、もうしっちゃかめっちゃかです。
 
くたくたになりながらゴッキが尋ねます。
「サル、タッツーの手は?」
「逆じゃ、サルの手じゃ」
「さるのてあったよー」とマコリンぺリーナ。
「それはわしの右手じゃ」
「こっちにあった、チョーきもい」とカコポリーナ。
「それはわしの左手じゃ」
「じゃあサルの手はどこよ」とゴッキ
「あっ、ヒーソクリフが持ってるうぅ〜」
マコリンぺリーナの言葉に一斉に油で滑りながらもヒーソクリフの方を見ると芋に埋もれながらサルの手をいじっています。
 
「ヒーソクリフ、ママよ。それを頂戴」
強張った笑顔をつくりゴッキが言いましたが、ヒーソクリフはうんわかったとばかりに「あ〜う」というだけでした。
「ヒーソクリーフ、お利口ね〜、ちゃ〜んと考えましょうね。それがないと王になれないのよ~」
ヒーソクリフはかまうもんかいとばかりにサルの指をいじっています。
「あうあうあ〜」
元気よく何かを言ったと思ったらサルの指をぽきんと折ってしまいました。
みんなはあげ芋のように天井から何かが落ちてくるのではないかと思い上を見ていましたが、なにも落ちてきません。それどころかあげ芋も落ちてきませんでした。
しかし足元で何か音がします。
モゾモゾ、ブーン、カサカサと小さなものが動く音です。
 
「ぎえ〜」
真っ先にカコポリーナが叫び、飛び出して行きました。
「お母さみゃ、虫がいっぱいいるぅ」
マコリンペリーナは声を震わせていました。
足許のあげ芋はいつの間にか虫になっていました。テントウ虫やかぶと虫は羽根を広げて飛び、ダンゴムシは丸くなり、アリは行進しています。
「ゴキブリもいるぅ」
この時ばかりは娘らしくマコリンペリーナは怖がっていました。
「それでもあたしの娘なのっ。ゴキブリなんてこうよっ」
両手にスリッパを持ち見事な手さばきでパンパンと叩きつぶし勝ち誇ったようにゴッキは笑っていました。
 
ヒーソクリフはというと大好きな虫をたくさん見ることができ満足していましたが、そのうち虫に飽き一人でトットコと外へ出て行ってしまいました。
庭の端まで来るとそこにぺちゃんと座り込み、サルの残った最後の一本の指をいじりだしました。彼には何が起きているのかまったくわかりませんでしたが、少し楽しくなっていました。
そして今までで一番楽しかったことを思い出しました。
「うしゃぎもたぺたいって〜」
パキン
興奮して手を振った瞬間、サルの指が折れました。
「ヒーソクリフ、サルの手を返せぇ」
髪を振りみだしたゴッキが息子を見つけた時、手に握られたサルの手が砂のように崩れ落ちていきました。
それを見てゴッキもその場に崩れ落ちました。
「ああっ、金も人も王位も…」
 
 
 
その頃、ナール王子の宮殿にマーサ妃の声が響きました。
「きゃあっ」
「マーサ様、どうなさいました」
「いかがいたしました?」
メイドが大急ぎで集まってきました。
回廊を歩いていたマーサ妃を取り囲むように草花が落ちていたのです。
「突然花が落ちてきて…それで驚いてしまったの」
「マーサ様、お怪我はございませんか?」
「なんていう悪戯をするんだろう。一体誰が」
メイドは口々に言いました。でも心の中では誰かが犯人なのか確信し、公爵家のある方向を睨みました。
しかしマーサ妃はクスクスと笑っていました。
花の中に細長く切られたニンジンが混ざっていたのです。きっと誰かが内緒で動物のエサを隠していたのでしょう。
「そんなに気にすることではないわ、可愛いではありませんか。それより花は捨てないで飾りましょう」
マーサ妃自ら花を拾い出すとメイドたちも慌てて花を拾いました。
その後メイドたちと一緒に楽しく宮殿を花で飾ったのです。
 
 
 
 
一方の公爵家ではその後しばらく、3本目の願いが何か判らず、いつ何が飛び出すのか戦々恐々とした日々を過ごしたそうです。

PAST INDEX FUTURE

Last updated: 2012/6/25