むかしむかしまだ王位に就く前のブルーギルとスモールソーサーは外国によく行っていました。
そのときとても珍しい動物を見たのです。
その動物の名前は象といいました。
動物園でおりに入っている象は知っていましたが、野生の象が草原を悠然と歩いているのを見てとても興奮しました。
二つの大きな耳はまるでスモールソーサーの大好きな肩パット入りの服のようでした。
メスがリーダーになるという習性もソーサーを興奮させた理由かもしれません。
スモールソーサーは象に対して親近感を持ったのでした。
ある日スモールソーサーは新しいドレスをつくるためにデザイナーを呼びました。
民の前に同じドレスを着て出る訳には行きません。
生地から徹底的に選ぶのです。
デザイナーが持ってきた見本から生地の質や色などを穴が開くかと思うほどよく見て、よく触り、それから生地を決めるのです。
「この生地がいいわね。でも色がよくないわ」
「色はいいけど手触りがだめね」
などとダメ出しをなさるのが常で、なかなかお気に入りのものを見つけられません。
ついにはご自身で色の指定をなさいました。
「この生地で色は象色にして頂戴」
「ぞ・う・ですか?あの大きな・ぞ・う・でございますか?」
「そうです。昔わたくしをあれほど興奮させた象の色ならば民もきっと喜んで興奮することでしょう」
「さ、さすがソーサー様。目の付けどころが違いますわ…」
そう言いながらもデザイナーは変な汗をかいていました。
数日後、デザイナーはサンプルを持ってソーサー后の元にやってきました。
ずらっと並べられた生地はどれも灰色に染まっています。
「こちらは象の腹色。こちらは象の耳色。そしてこちらは水浴びをする象色。この二色のグラデーションは象牙と象色でございます」
どれも同じような色でしたが、説明を受けるソーサー后は一つずつ手に取り、頷きながら裏返したり、ライトに透かしてみたりしながら確認をしておりました。
それからサンプルを二つに分け、片方を押し返しました。
「こちらはだめね。色がよくないわ。でもこちらの方はいい色だわ。これでドレスをつくるように。こちらの布は肩は象の耳をかたどったケープにして頂戴」
デザイナーはほっとしてサンプルをバックに詰めました。何がよくて何が悪いのかなんて関係ありません。とにかく首を縦に振るだけです。そしてそそくさと宮殿を後にしました。
しばらくしたある日のこと、ソーサー后は象の腹色のドレスをお召しになり民の前に姿を見せられました。
「きっと、ソーサー様と言う声で埋め尽くされてしまうわ。わたくしの耳がキーンとなってしまうわね」
などと思いながらソーサー后は満面の笑みで前に進み出ました。
しかし民はいつもと同じような声で名前を呼ぶだけでした。ドレスの色には目を向けていないようです。
数日後に大好きな瓦版を隅から隅まで読んでみてもこの象色のドレスを褒める記事はありません。
「どうしてわかって下さらないの?この興奮を呼ぶ色をどうして?」
ソーサー后の声が王宮に響き、使用人たちはそのとばっちりを想像してゾォッとしたのでした。
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