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本当は恐いグリル童話U

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夏の扉
 
少し前のある暑い夏の日のことです。
 
馬車の中から暑苦しい声がしています。
「お父さみゃ~、暑いよぉ、ジュース飲みたいよぉ」
「我慢しろ、お母さまがこっちで御馳走になれといったろ。着いたら王子が何でも喰わせてくれるぞ。ジュースもアイスもケーキも食べ放題だ」
「嬉しい、お父さみゃ〜。王子ってマジ太っ腹」
「お前ほどじゃあないがな」
上手い事を云ったつもりでデリカシーの無い父フンミ・アキシーノ公爵はにやにや笑いました。
娘のマコリンペリーナは自分のりっぱなお腹をさすりながら首をひねり、お父さみゃは何を言っているんだろうと不思議でした。ご自分のことをよくご存じないご令嬢でした。
 
この日はいつもは必ずいるゴッキ公爵夫人とヒーソクリフはなぜかいませんでした。でもお父さみゃと二人で出掛けるのはよくあることでしたから、マコリンペリーナはちっとも気にしませんでした。そしてみんなでついうっかりカコポリーナのことを忘れてしまいました。
 
二人が向かったのはトチギ・ナスノ城でした。ここにはナール王子がご家族でいらっしゃっているのです。
マコリンペリーナはきっと王子が出してくれるであろう美味しい物を想像するとお腹がきゅるるとなってしまうのでした。
 
実はもうすぐマコリンペリーナの社交界デビューが来るのですが、公爵夫人は正式なデビューをしたことがありません。何をどうしてよいかわからないのです。
それで、娘の派手なお披露目のパーティのために王子に骨を折ってもらおうとアキシーノ公爵は勝手にやってきたのです。
 
「王子はお留守でございます。お引き取り下さいませ」
意外な言葉でした。
公爵はあまりおつむの出来が芳しくない方でしたので、王子がいないというのは想定外でした。その上帰れといわれるなど思っていませんでした。
「お父さみゃあ~、暑いよぉ〜。ジュースはまだぁ?お腹もすいたよぉ。ポテチ食べた~い」
娘の、父に輪をかけて芳しくないおつむは炎天下で香ばしく焼けてしまっているようでした。
「王子は留守ですけれども、私たちは来たのですけれども、中で待つことにしたいのですけれども」
公爵はグイッと身体をとびらに入れようとしますが、使用人はそれを許しません。
「ここは王子の御滞在なさる城でございます。お出でになる前にはご連絡いただくのがしきたりでございます。それに主人である王子にお伺いを立てず私の一存で物事を決めるなどあってはならぬことは公爵もご存じのはず。またお戻りもいつになるか判りませんので、今日はお帰り下さいませ」
ちょっと難しい言い回しに公爵は頭がぐるぐる、目もぐるぐるしていました。
「アイスはチョコがいい〜。イチゴのケーキも食べるぅ〜」
娘のお腹もぐるぐる鳴っていました。
 
結局公爵は王子に会えないまま、近くの公爵家専用に無理に造らせたロッジで夜を過ごしそのまま帰ったのでした。
マコリンペリーナは夜には好きなだけジュースを飲み、ポテチもやき鳥もアイスを食べたので充分幸せでしたが、アキシーノ公爵は夫人に叱られるのを考えるとまた眼がぐるぐると回ってしまうのでした。
のちにマコリンペリーナが肉詰めドレスにバームクーヘン・ティアラをつけて民の前に姿を現したことは皆様ご存じのことでございます。
 
公爵とマコリンペリーナが色々なところをぐるぐる回している時、アイコディーテ姫は仲の良いノビツキー家の御子息たちと愛らしい動物たちとの楽しい時間を過ごしており、変なものを見ないですみました。
 
めでたし、めでたし。
 
 
ノビツキー家の御子息…アイコディーテ姫の仲よしの子

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Last updated: 2012/6/25