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本当は恐いグリル童話U

16
赤ずきん @
 
 
 
冬の寒い日、アイコディーテ姫は風邪をひいてしまいました。少しよくなった頃に今度はブルーギル王が体調を崩されました。
すると王の主治医ヤブーゴールドはアイコディーテ姫の風邪がうつったのではないかと疑ったのです。アイコディーテ姫はそれを聞きお心を痛めました。自分のせいでおじいさまが病気になったのかと思ったのです。もちろんナール王子はそうではないとおっしゃいましたが、姫はじっとしていられませんでした。
それで姫はブルーギル王にお見舞いの手紙を書き、それといっしょに森の奥に生えているオレンジをお届けしようと考えました。このオレンジは冬でも実をつける不思議なオレンジでどんな病気も治すというものでした。きっとこれを食べれば王も元気になるでしょう。
 
姫はこれを一人で採りに行きたいと言いました。
マーサ妃は少し心配でしたが森は城からそう遠くないところにあり、アイコディーテ姫の自主性を大切にしようと思っておりましたので、寄り道をしないように約束をさせて姫が一人でオレンジを取りに行くことを許しました。
その頃ソレイユ国では大雪が降っていました。雪が積もった森ですので寒くないように赤いフードの付いたマントを着せ、手袋を渡し、温かなお茶の入ったポットを入れたカゴを持たせ、マーサ妃はアイコディーテ姫を送り出しました。
 
姫は元気に森を目指して歩きました。吐く息は白く、ずっと先まで雪しか見えませんでしたがブルーギル王が元気になった姿を思い描き頑張って進みました。
「アイコディーテはもう子供じゃないんですもの。一人で行けるわ」
そんな姫を遠くから見る怪しい目があります。姫はそれに気づいていませんでした。
 
もうお城が見えなくなった頃、アイコディーテ姫の目の前に飛び出してきた物があります。
ぐるぐると唸り声をあげる猟犬でした。鋭い目でにらみ、牙を見せ、姫を威嚇しています。
「まあ、怖い顔。どうしたの?飼い主とはぐれたの?」
少し怖かったのですが、優しい姫は雪の中に現れた犬を心配していたのです。
噛みつかれないように用心しながらそっと手を伸ばし、猟犬の首をさするととても気持ちよさそうな顔をします。この猟犬は優しくされたことがなかったので嬉しくなってしまったのでした。
「おりこうさんね。飼い主がいないのなら私のところで飼えるかしら?ゆりと仲良くできるかしら?」
すると姫の言葉がわかるのかくぅーんと甘えた声を出して答えます。
「猫もいるのよ。喧嘩してはいけないのよ」
にっこりと笑うと猟犬も笑ったような顔をしました。
きゅっと抱きしめると猟犬はすっかり姫の飼い犬に収まったかのように甘えていました。
ところが遠くから口笛がぴゅーとなり、猟犬はびくっと体を強張らせ数歩、音のした方へあるきました。それから名残惜しそうに姫を振り返りくぅーんと鳴くと走り出しました。
「飼い主がいたのね。りっぱな猟犬ですもの、当然ね。でも冬に狩りなんてできるのかしら」
首をかしげて考えましたが、すぐオレンジの木を目指して歩き出しました。
 
 
しばらく進むと真っ白な中に緑が見えました。そこだけ春のような不思議な光景でした。緑に包まれるように鮮やかな色が見えます。
「オレンジだわ」
アイコディーテ姫はオレンジの木まで走りました。噂どおりに冬の寒い中大きな実をつけたオレンジがなっていました。
「大きなオレンジが3つもあるわ」
あまり高くない木でしたので少し背伸びをしながら3つのオレンジをもいでカゴへ入れました。オレンジは太陽のように輝いて見えました。
「お母様が心配なさるわ。はやく戻りましょう」

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Last updated: 2012/6/25