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本当は恐いグリル童話U

14
ヘンデスとグレテール
 
 
ゴッキ公爵夫人は不機嫌でした。
 
なぜかというとageが足らないのです。ただでさえ人やお金が足らないと思っていましたのでageだけでも増やしたかったのです。そうして苛立っては小間使いからコックまでもれなく怒りまくっていました。
 
ついには二人の娘たちに向かっていいました。
「人も少ないんだから、あんたらageのために何かしてきなさい」
「ageってなにをするの?」とマコリンペリーナ。
「民のところへ行って話をするのよ。こっちを向かない時は向くまで肩を叩いて向かせるのよ」
「マジ?」とマコリンペリーナ。
「かったるーい」とカコポリーナ。
「いいから行っておいでっ」
母の剣幕に二人の娘はいやいや外へ出て行きました。
 
「お母さみゃはいつも怒っているわ」
「お姉さみゃはいつも腹ペコだわ」とカコポリーナが言うと同時にマコリンペリーナのお腹がぐうっとなります。
マコリンペリーナはポケットからパンを取り出しました。
「お姉さみゃ、そ、それはお母さみゃのやきそばパンね」
「ほうよ」
頬張りながら答えたため上手く喋れませんでした。
「私のは?私のやきそばパンは?」
「ないわ」とパンをたいらげたマコリンペリーナが答えました。
「いつもお姉さみゃだけ…ずるい」
 
それでも二人は仲よく村へと向かう道を進み、途中の森に迷い込みました。その森をしばらく歩くと一軒の小さな家にたどり着いたのです。
家の前にはテーブルがあり、お菓子が山のように置いてあり、中からはいいにおいがしてきます。
 
パン一つで満足できないマコリンペリーナとやきそばドッグ一本もわけてもらえなかったカコポリーナは美味しそうなクッキーやチョコレートをバクバク食べ始めました。
「おや、子供たち、もう遊びに来たのかい?」
物音に気づき中から一人のお婆さんが顔を出しました。この家には近所の子供たちが遊びに来るのでお婆さんはいつもお菓子を出していたのです。
この時もてっきり近所の子供たちが遊びに来てお菓子を食べていると思ったのですが、いつもの子供ではなく、かなり大きな女の子がテーブルに覆いかぶさるようにしてお菓子を食べていたので大変驚きました。
しかしこのお婆さんはとてもいい人だったので、二人がお菓子を食べるのを黙って見ていました。何か言ってギャクギレされても困りますからね。
 
「おいしいじゃん、もっとぉ」
「足りなーい」
姉妹は自己紹介もせず、食べ物をせがみました。
仕方ないので二人を家の中へ入れ、ご飯を作ることにしました。お婆さんがカツ丼を出すと二人ともがつがつとたいらげ、ようやく満足したのです。
 
「チョーウマッ、これ何ていうの?」とカコポリーナ。
「カツ丼よ。豚肉を揚げて作るのよ」
マコリンペリーナはハッとしました。お母さみゃのいうageを見つけたと思ったからです。
「カコポリーナ、ageよ。あんた、覚えてきなさい」
「またぁ?いつもお姉さみゃばっかり楽してる」
不満タラタラにカコポリーナはカツを揚げることにしました。
 
初めてのことでしたから粉を撒き散らし、卵液をこぼし、パン粉を飛ばし、カツを油に投げ入れて部屋中を油まみれにしました。
「キモイッ。ベタベタする。なによこれぇ」
苛立ってカコポリーナはそこらじゅうに当たり散らしました。卵液は天井へ飛び、お皿が割れ、水差しは倒れ、お鍋が転がりました。
「あつっ、せっかく巻いた髪にはねたっ」
はねた油に怒り、あらゆるものをひっくり返しました。椅子もテーブルも、ぜんぶです。どさくさまぎれにマコリンペリーナも手当たり次第に物を投げました。
お婆さんはブルブル震えながら部屋の隅で小さくなって怯えていました。
「ちょっとは手伝いなさいよっ、お姉ちゃんだからって威張ってばかり」
「あんたは妹だから仕方ないでしょ」
妹に言い返し飛び蹴りをすると、それに慣れている妹はさっとかわします。そのままマコリンペリーナは震えているお婆さんの近くまで飛びました。お婆さんが悲鳴をあげても姉妹はお構いなしに喧嘩をしていました。
その間もカツはじゅうと音を立てて油の中を泳いでいます。
「こんな変なお姉ちゃん、いらないわっ」
「変じゃないわよっ」
「変ですったら変っ」
 
そんな大騒ぎの末になんとかカツを揚げることに成功したカコポリーナはぶつぶつ言いながらもほんの少し満足していたのです。
お皿に乗ったカツはとても美味しそうでした。
「チョーウマソウ」
しかし、ぱくっとマコリンペリーナが揚げたてのカツを食べてしまいました。
「何食べてんのよぉ、もうグレてやるぅ」
カコポリーナは盗んだバイクで走りだす勢いで、行き先もわからぬまま飛び出しました。
マコリンペリーナはあわてて妹の後を追うように出て行きました。
 
もちろん、後片づけはしません。
公爵令嬢ともあろう者が片づけをするなんて考えもしませんでした。
油ギトギトのキッチンに粉やら卵やらがこびりつき、割れた皿や失敗した真っ黒なカツの山の中に残されたお婆さんは村の子供たちが見つけるまで震えて「変です…グレて…る」とうわごとのように言っていました。そしてその後しばらく寝込んでしまいました。
 
 
このことは村人たちの間で恐怖の姉妹「ヘンデスとグレテール」の話として長く語り継がれたということです。
 
そしてカコポリーナはカツを揚げる名人になったのでした。

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Last updated: 2012/6/25