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本当は恐いグリル童話U

13
時計じかけのオレンチノコ

 
 
ゴッキ公爵夫人は考えていました。
よぉく考えましょうね、と自分に言い聞かせていました。
そしてそれなりの頭で、それなり以上に考えていたのです。
というのもやんちゃなヒーソクリフはあらぬ方向へ走ることがしばしばあり、いつもヒヤヒヤしていたからです。
アイコディーテ姫の評判は上がって行くのにランボー夫人は役に立たないし、ヒワイビッチも今一つ決定打にならなかったのでここはヒーソクリフに出てもらうしかなかったのです。
 
 
ある日よい事を思いつきました。それはある国のカラクリ人形をまねて、体を木で固定しゼンマイをつけるというものでした。
アキシーノ公爵は未知の分野にふらりと首を突っ込んでは勲章を貰うのが趣味という方でしたので、今回も知らないことに挑戦しようと自らこの仕事を引き受けました。上手くできれば珍しい動物を見に行くことをゴッキ夫人に許してもらえると思ったのです。
まずアキシーノ公爵は屋敷のはずれに研究所を立て、NASA−RYと命名しました。
なにはなくとも横文字が好きな方でした。
そしてカラクリの仕掛け製作に「プロジェクトT−BOSE」と名付けました。
とにかく形から入るのが好きな方でした。
 
 
まず初めに適当に切った木片に糸をくくりつけました。それを息子の身体に張り合わせ、背中にゼンマイをとりつけました。息子が嫌がって体をくねくねさせてもお構いなしです。ゴッキ夫人も息子をむんずと捕まえて手伝いました。
するとどうでしょう。ヒーソクリフはびしっと直立したのです。
「立った、ヒーソクリフがまっすぐ立ったわ」
ゴッキ夫人は大喜びです。
ためしにゼンマイを巻いて動かしてみるとちょこちょこと歩き、そしてピタッと止まりました。
 
 
公爵夫婦はこの素晴らしい成果を見せたくなり、瓦版屋を集めました。
異常なくらい真横に伸びた木のそばにヒーソクリフを立たせ、こっそりと背中のゼンマイを巻きました。
するするっと小さなヒーソクリフは木に登り(途中から横移動になりましたが)ぴょーんと木から飛び降りました。ゴッキ夫人は満足してこれでもかと口角をググイッと上げるのでした。
 
 
しかしこれで終わるわけがありません。
公爵はNASA−RYに籠り次の仕掛けを作り続けました。木登りが上手くいったので少々調子に乗っていたのです。今度上手くいったら堂々とタイトカタイトカタイトカ国に行けると思ったのです。
 
 
次に瓦版屋を呼んだのはしばらくしてのことでした。
小さなテーブルに乗ったヒーソクリフは見事にぴょんと滑り落ちるように飛びました。
木のぼりの方が見事だったのですが、公爵はそのことに気づいていません。
二度も上手くいったので、家族で着飾って瓦版屋の前に出ました。記念の姿を宣伝してもらおうという魂胆です。
 
 
ところが小さな事件が起きました。
ヒーソクリフのカラクリの糸が絡まったのでしょうか、突然パタパタとあらぬ方向へ走りだしたのです。途中はいていた靴が脱げましたが、カラクリの力には勝てずどんどん走って行きます。公爵は慌てて息子を捕まえました。
瓦版屋は見なかったことにしました。ゴッキ夫人のひきつった笑顔が怖かったからです。
 
 
ゴッキ夫人は夫をかなりきつくしかり飛ばし、夫人から逃げるように公爵はNASA−RYへ籠りカラクリのさらなる改良に着手しました。
「もっとゼンマイを強くしよう。糸ももっと太くしよう」
公爵に考えられるすべてのことをしました。というよりこれくらいしか頭に浮かばなかったのです。
 
 
次にヒーソクリフが現れたのは王宮の使用人たちの芸術発表会の場でした。さすがにゴッキ夫人も学習したのか、この時お抱え瓦版屋のヒワイビッチのところにだけ取材を許しました。万が一を恐れてのことです。
 
 
いざ中に入ると入口近くのおもちゃにヒーソクリフの興味が向いているすきにゴッキ夫人はゼンマイをめいっぱいに回しました。するとヒーソフリフはおもちゃを離れて歩き出しました。まだおもちゃに未練がありそちらを気にしていたようでしたが、ゴッキ夫人はぎゅっと手を握り中ほどまで連れて行きました。
ゼンマイがぎりぎりと音を立てて回っています。それに合わせてヒーソクリフは歩いたり止まって頷いたりを繰り返していましたが、やはりおもちゃが気になりそちらの方に体をグイッと曲げました。
パキーンという高い音がすると「うん、わかった」とばかりにゼンマイがまわり出し、入口の方へヒーソクリフの身体を運びました。設計のミスでしょうか、強化されたカラクリは予定にない動きをするのでした。
慌てたゴッキ夫人はすぐにその手をつかみ、元の場所へ引き戻すのですが、ゼンマイは強力で「かまうもんかい」とばかりにおもちゃのある入口へとヒーソフリフの身体を動かして行きました。
あとはゼンマイが切れるまで思う存分おもちゃで遊んだということです。
 
 
間もなくヒワイビッチの指導のもとなんとか誤魔化した瓦版が出されました。
「ヒーソクリフ様のやんちゃぶりに(ゼンマイも)ほっこりと暖められたよう(に動き出したの)だった」
記事はそう締めくくられていました。
 
 
一方アキシーノ公爵は氷のミーティングでいやというほどゴッキ夫人に怒られたうえにタイトカタイトカタイトカ国には行けそうにもないということでした。
そしてヒーソクリフの仕掛けからゼンマイは外され今は板のみがつけられているということです。
 
 
 
※T−BOSE…遠い国のからくり人形。お茶を乗せると客の前まで運び、お茶をとると踵を返して戻るという優れ物。
 NASA−RY…公爵が敷地にたてたヒーソクリフ専用の謎のプレハブ施設。
 

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Last updated: 2012/6/25