一日中楽しくテニスをしたその夜、スモールソーサー后は瓦版をチェックし始めました。赤いインクをつけた羽ペンでいくつかにマルをつけました。そしていくつかにバツをつけました。
「この記事はイヤね。訂正させましょう。こちらはいいわ、マーサが晩さん会に出てこれないことをわたくしが悲しんでいる…なんて素敵な記事でしょう。あら、演奏会があるわ。予定に組み込まなければいけないわ。足腰の痛みは知らんぷりしましょう」
そう言って赤でマルをつけます。
執事に瓦版ごと渡すとスモールソーサー后は床につきました。テニスをして少し疲れたのです。
「それでも民の元へ出なければいけないわ。わたくしを待っているでしょうから、エーゲレスにも行かなければいけないわ。ああ、忙しいったらありゃしない」
朝、鏡をのぞくとあるべきものがありません。慌てて特製クローゼットを開き、中を確かめました。
「わたくしの帽子…1つ、2つ、3つ……8つ、9つ…一つ足りないわ」
顔が一気に青ざめました。棚をひっくり返し、奥の奥まで捜しましたが一つ見つかりません。チェストの裏もベッドの下も探しましたが見つからないのです。
「ヤバイ、バルコニーの外で民がわたくしの登場を待っているというのに」
スモールソーサー后が焦って部屋中をひっくり返しても何も出てきません。毛足の長いじゅうたんの下もめくってみました。鏡のうしろもみました。それでも出てきません。
バルコニーの外では民が后を呼んでいます。ふとバルコニーに出る窓を見るとそこに探し求めていたものが引っ掛かっています。
「ああ、わたくしの特製帽子」
たたっと駆け寄りレディー・スマープの特製帽子に手を書けた瞬間、バルコニーがバット開き、乱れた髪のまま民の前に飛び出してしまいました。
「なんだ、あれ」
「おい、スモールソーサー后って…」
民のざわめきと小さな笑いが起こりました。后は顔を真っ赤にして部屋の中に飛び込みました。
「キィィッ、チクショウ」
ただ歯ぎしりをして怒るしかできませんでした。
ハッと気づくと朝になっていました。
「夢?」
つぶやくと慌てて頭に手をやりました。
「10個目…。わたくしがこんなに嫌な思いをするのもマーサがナールをとったからよ。だからこんなにわたくしが一人で苦労するのだわ。そうに違いないわ。絶対そうよ」
ひとしきりマーサ妃のせいにするとやっと安心して起き上がるのでした。
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