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Bon Appetit

8      第八夜:アントルメ:チョコっとボケトルメの盛り合わせ

 
 
ブルーギル王は書類にサインをしたり、難しい話を聞くのに少し飽きていました。
「そうだ、明日はスモールソーサーとテニスをしよう」
大好きなテニスができるとなるとわくわくしてなかなか寝付けませんでした。
 
ふと周囲を見るとブルーギル王は灰色の空とそれよりは少し暗い灰色の道の上にいました。
王は今まで一人で何かをするということがありませんでした。必ず誰かが用意をしてくれていましたので、どうしてよいのかわからなかったのです。
すると道の先が二つに分かれているのが見えてきました。
右には男の子がいて王冠を持って待っています。左には女の子がいてブーケを持っています。二人とも笑顔で王を待っているのでした。
 
王は迷わず男の子の方に向かって歩きました。近づくにつれ女の子の姿が霞んでいきます。
男の子は王が目の前につくと突然向こうへ走りだしました。
王は急いで男の子を追いました。そこにも二つに分かれた道があり男の子と女の子が先ほどと同じようにそれぞれ王冠とブーケを持っていました。
ここでも王は男の子の方へ歩いて行きました。やはり先ほどと同じように女の子は消え、男の子は王が目の前に来ると走り出しました。
 
そんなことを何度か繰り返しているうちに、ブルーギル王は息が苦しくなってしまいました。ぜいぜいと荒い息をしながらも男の子のほうに進みます。
そしてまた分かれ道に来ました。
今度は、男の子は手に色のついた紙を持っていました。女の子は花冠を持っていました。
それでも王は男の子のほうに進みました。また女の子は姿を消してしまいます。
「今度は捕まえるぞ」
心臓が止まりそうになりながら男の子に向かって走り、ついに捕まえました。
いつの間にか王は男の子と船に乗っていました。
男の子がゆっくりと振り向き「どやってもちゅんでしゅか」と言いながら王の腕をつかみました。
あまりに強く握ったので心臓がばくばくと激しく鼓動し、とても苦しくなりました。それからゆっくりと男の子は王の方を見ました。男の子の顔は王の顔になっていました。
逃れようと手足を動かしても男の子はぴったりと張り付いて離れません。
「ああ…」と王が呻いた瞬間、ゆらりと舟が歪み、溶けたチョコレートのようになってブルーギル王を包み込みどこまでも深く沈んで行きました。
 
気がつくと朝になっており、王はベッドの中にいました。
「…何だったかな?…そうだ、テニスをするんだった」
サイドテーブルの上のベルを鳴らし、使用人を呼ぶとテニスの準備を命じ、まだ少し痛む胸を気にしながら自身もメイドたちに手伝わせて朝の準備を始めました。
「テニス、テニス、嬉しいなっと」
 
ブルーギル王はあまり深くお考えにならない方なのでした。面倒なことはすべて執事に任せるのです。王の関心事は楽しいことだけなのです。
そして今日もスモールソーサー相手の遊びに夢中になるのでした。
 
 
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Last updated: 2012/9/25