ウッドブックパール商会から大きな新しい真珠を買ったばかりのゴッキは浮かれていました。昼にサーヤが突然訪れてあり合わせでつくったサンドウィッチを出した分のストレス解消です。鼻の穴よりも大きな真珠を見ていると心が落ち着いていくのです。
その夜は満足してすんなりと眠ることができました。
ヒーソクリフはいつの間にか立派な青年になっていました。綺麗な礼服を着ています。どうやら教会での戴冠式のようでした。
ゴッキはアイコディーテ姫を探しました。姫はナール王子とマーサ妃と一緒に戴冠式を見ています。鼻の穴をいつもより大きく広げながらゴッキは勝ち誇ったいやみな笑みを浮かべナール王子たちを見ていました。
「ふふふ、どうよ。ヒーソクリフが王になるんだわ。そうして私は王の母。マーサなんてアイコディーテと一緒に国外追放よ。王の母になれば何だってできるんだから。イーヒヒヒッ」
式典はいよいよ王冠を授ける場面です。
司教が王冠を高々と掲げた時ヒーソクリフが言いました。「これは何の?」
「王冠でございます。ヒーソクリフ様の頭にお載せします。それまで辛抱下さい」と小声で司教は答えました。
「どのくらい?」
「すぐです。すぐ終わりますよ。ですから膝をついて下さい」
ヒーソクリフは何度も練習した通り膝をついてぼけーっと床を見ました。
「虫っ。ダンゴムシ、ジップロック、ジップロック」
床にはいずり回る虫を見つけ、それをぎゅっと掴むとヒーソクリフはジップロックを求めそこら辺をうろつき始めました。
教会中は大騒ぎです。婦人たちは虫の存在に慌て、叫び、逃げ出しました。兵士たちは走りだすヒーソクリフを捕まえようと教会の中を走ります。そして貴族たちはこのみっともない戴冠式に呆れ、幾人かは遠慮もせず大笑いしていました。
「王冠、王冠」
ヒーソクリフを追いながらゴッキが囁きますが、大人になったヒーソクリフの足には敵わずどんどん引き離されてしまいました。
司教は困ったような、安堵したような表情で人々の中にナール王子を見つけ、手に持った王冠を当然のようにナール王子の頭に載せました。するとその場にいた全員が一斉に膝をついて新しい王に敬意を示したのです。
そしてヒーソクリフはそのままどこかへ行ってしまい、司教の言ったようにヒーソクリフの儀式はすぐに終わりました。残されたゴッキは冷ややかな目と嘲笑にいたたまれなくなりドレスをめくって遁走しました。
「ぎゃーっ」
ものすごい声を出し、ゴッキは目を覚ましました。
「なんとかしなくちゃ、マコリンペリーナとカコポリーナにも爵位を…」
そう言って額の汗をぬぐいました。
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