アイコディーテ姫の姿を見るとなぜかサーヤ・ノワゼット夫人は胸がむかむかするのです。いずれ姫が大人になった時求婚者が列をなしたらどうしよう、そんなことになったら憤死してしまうと思っていたのです。
今日も今日とて王宮に泊まったサーヤ夫人はベッドの中で呪文のように言い続けました。
「アイコディーテが笑っていたわ。わたくしを笑っていたのではないかしら。でもわたくしは結婚したの。アイコディーテには求婚者が現れないかもしれないじゃない。落ち着くのよ、サーヤ。わたくしは人生の勝者よ」
薬指につけたリングを何度も確かめて眠りにおちるまで言い続けました。
「わたくしは負け犬じゃないわ。白いドレスを着たのよ。「おじさま」が来たらいつか王宮に返り咲いてやるわ」
「わたくしは勝ったわ」
ウェディングドレスの裾を翻してサーヤ夫人は叫びました。
「わたくしに足りないもの、それを手に入れたのよ。夫さえそろえば誰にも文句は言わせないわ」
そう叫んだサーヤ夫人の足元がグニャリと歪み、どんどん下に落ちていったのです。まるで底なし沼に飲み込まれて行くようでした。
「どうして?完璧なはずなのになぜ?」
理解できずに手をのばして足掻くその眼に映ったのは二人の娘を連れたゴッキ公爵夫人でした。
「イヒヒ、よく見るんだよ。ああなりたくなかったら金持ちを捕まえるのよ」
ゴッキはサーヤを助けようともせず立ち去りました。
「ゴッキィッ、よくもぉ」
そう叫びサーヤ夫人は目を覚ましました。汗をびっしょりかいていてまるで沼から出てきたようでした。
「恐ろしい夢を見たわ。気分転換にバード・ウォッチングをしましょう。そしてゴッキのところでご飯を食べてやるわ」
鼻息も荒くサーヤ夫人は愛用の双眼鏡を手に出かけるのでした。
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