マコリンペリーナは見た目からは想像しがたいのですが、色々と悩んでおりました。
あるのかどうか定かではない呪いが解けないとか、王族の集まる式典にご飯が出ないとか、本当にいろいろありました。
しかし一番困っているのは学問所のことです。
マコリンペリーナは何を専門に学ぶか決めなければなりませんでした。
ただ箔をつけるために行った学問所でこんなことを悩むとは思いませんでした。
「王子は何を勉強するのかなー」
と、未だに王子と信じている獅子身中の虫の玉子を想って首をひねっていました。
「なによ、肩こりならメイドにでも揉ませなさいよ」
重そうに首をひねる娘を見たゴッキは言うとマコリンペリーナは口をすぼめて反論しました。
「肩こりじゃないよぉ」
「じゃあ何よ。今日のご飯?ちゃんと肉を出すわよ。
“おとうさみゃあ、ヒーソクリフがお肉が食べたいと申しておりましゅのぉ〜”
って言って手に入れたのよ。
まったく、あんたを肥やすためにフンミと結婚したり王に媚びてるんじゃないのよ。
土管みたいに育っちゃって…」
じゅるっとよだれを流しそうになりながらマコリンペリーナは応えます。
「お肉、好きぃー。でもご飯のことじゃないんだよぉ。
王子と同じ進路に決めたいのにまだ教えてもらってないんだよ」
すると途端にゴッキの目がつり上がりました。
「豚の手の真似して肖像画なんて描かれたっていうのにまだ追いかけてるのっ」
「豚の手じゃないよ、ピースだよぉ」
「大体、あんな子にうちの一族みんなを食わせていけると思ってんの?
みんな、うちにたかって生きてんのよ。
一族背負う財力がなけりゃだめよ」
「細いから背負えないよぉ。
シュー・ホースおじさんデブじゃん、背負うなんてムリムリ」
「どの体型で言ってんの、あんたもシュー・ホースもどっこいどっこいよ」
ゴッキにしこたま怒られブンむくれたマコリンペリーナはあげ芋の袋を持って家を飛び出しました。
急いで出たためブーツがつぶれてしまいましたが、ほとんどの靴がすぐにつぶれてしまうので気にしませんでした。
しばらく歩くと疲れてしまい、その場にぺちゃんと座り込みました。
マコリンペリーナは普段から馬車を使っているので歩くことに慣れていないのです。
雪が降っていればその上を板に乗って滑るのですが、雪は降っていませんでした。
「痛い、痛い」
お尻の下から声がしました。ちらっと覗き込むと小さな何かがいました。
「何だろう?小さなおじさんがいるぅ」
「おいら妖精だよ。重いからどいとくれ」
茶色の服ととんがった帽子をつけたヒゲもじゃのおじさんは子犬くらいの大きさで、怒ったような顔をしていました。
ちょっとお尻をどけると、まだチュニックの裾が下敷きになっていましたが、妖精はほっとしました。圧死するかと思ったのです。
「どいとくれ。服を踏んでるよ」
「もう動けなーい。わたいに命令なんてしたらおじいさみゃに言いつけてやるぅ。小さなおじさんのくせに生意気っ」
妖精は何だか面倒な娘だな、と思いましたので隙をついて逃げるつもりで黙ってマコリンペリーナの隣に座っていました。
そのうちマコリンペリーナはお腹が空いたのか袋を破ってあげ芋を一人で食べ始めました。
隣の妖精は時々こぼれる破片を払いながらそれを羨ましく見ているだけでした。
すると一枚のあげ芋がぽろりと妖精の服の上に落ちましたので、すぐさまそれを拾い上げ口へ運び美味しそうに食べました。
「わたいのあげ芋っ、おじいさみゃに言いつけてやるぅ。あんたなんて追放よ」
ちょっとむせながら妖精は口の中のものを飲みこみました。
「あんたのじいさんが誰だか知らないが、妖精のおいらには関係ないのさ」
「なによっ、おじいさみゃは偉いんだから」
と言いながらマコリンペリーナは妖精をぽかぽか殴りました。
たかがあげ芋一枚で殴られてはたまりません。
頭を両手で覆いながら妖精は言いました。
「やめておくれ。やめてくれたら願いを一つかなえてやるよ」
マコリンペリーナは殴りながら聞きました。
「本当?」
「本当さ。だから殴るのはやめておくれ。くらくらしてきたよ」。
「わたいの願いはね、いっぱい綺麗な服も着たいな。
アイコディーテみたいにお利口になりたいしー、お母さみゃみたいなドデカイ真珠もつけたいしー…」
「願いは一つだけだよ。よく考えな」
「お母さみゃもよく“よく考えましょうね”っていうけど、考えるってどういう風にしたらいいのかわかんないよぉー」
さすがに妖精も呆れました。
しかしいつまでもこの娘に関わっていたくないという気持ちが大きくなっていましたので少しばかりサジェストすることにしました。
「今一番欲しいものは何だい?あげ芋が好きなんだろ?もう一袋欲しくないかい?」
マコリンペリーナはハッとしました。
あげ芋は充分に食べましたが、今日の夜はお肉だとゴッキが言っていたのを思い出したのです。
「お肉っ、今日のお肉。
カコポリーナよりもヒーソクリフよりも大きいのが食べたい。
もちろんお父さみゃやお母さみゃよりもおっきいーの。
お腹いっぱい食べたいなぁ」
「よっしゃ、任せとけっ。
びっくりするような肉を食べさせてやるよ。
じゃあ、おいらはこれで帰るから、ちょっとどいておくれ」
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