不思議の国のアリス

不思議の国のアリス(※1)
 
※1…明治43年に発売された丸山英観(薄夜)訳、
内外出版協会発売のアリスのタイトルは「愛ちゃんの夢物語」と言いました。
(他に美ィちゃん、まりちゃん、など翻訳者がかなり勝手な名前をつけていました。
内容も途中で別な話になったものもありました。)
 アリスのモデル、アリス・リデルは黒髪でした。
 

 6   Y.ウミヘビヘイビア
更新日時:
2011/12/23 
 
 テニスが終わるまでアリスは散歩をすることにした。一人でする散歩はちょっとさびしかった。
 少し歩くと海にでた。砂浜には大きな恐竜みたいな動物が寝ていた。
 ライオンの身体に羽根が生えていて、顔は鷲のよう。
 「鷲のようだけど、ライオンのようだし…」
 つい声に出してしまった。
 
 寝ていたそれは頭をあげて、「酔うなんて、お茶よっ」といって顔を赤くした。
 「ごめんなさい。あなたが何ていう動物か考えていたの」
 「わたしはグリフォン(※6)のイタシよ。お酒なんて飲んでないの。わかった?」
 「わかったわ。ここはなんていう海なの?」
 「ここは学校よ」
 アリスがどんなに目を凝らしても海の波と砂浜と空だけしか見えない。建物なんて一つもない。
 「わたしは卒業したけど、この学校に行っている子がいるわ。ちょっとこっちへいらっしゃい」
 
 海に向かってグリフォンのイタシが声をかけるとざぶざぶと水の中から大きな生き物が現れた。それは亀のような甲羅から亀の前足と牛のうしろ脚を出した、牛の頭の奇妙な生き物だった。
 「これは海亀モドキ(※7)でカユシっていうの」とイタシが教えてくれた。
 海亀モドキのカユシはフラフラしていて危なかしく見えた。でも注意して見るとステップを踏んでいた。
てっきり甲羅が重いのかと思ってしまった。
 
 「この子に学校のことを教えてあげてよ」
 イタシが言うとカユシはフラフラ踊りながらアリスの前に行ってくるんと回って話し始めた。
 「わたしたちの学校は海蛇の学校よ」
 「でも先生は藪蛇なのよ」とイタシが付け加える。
 「知らない蛇だわ。どうして海の学校の先生なの?」とアリス。
 「藪をつつきすぎて、困ったことになったから海へ来たのよ。あなたの学校にはいなかったの?」
 カユシが聞いてきた。やっぱりフラフラ踊っている。
 「いないわ。人間の先生だけよ」
 
 「学校では色々な授業があったのよ」フラフラ動いてカユシが言った。
 「わたしもたくさんのことを勉強したわ」アリスは学校が好きだからうれしくなって話した。「国語は漢字の読み方、書き方を習ったわ」
 「藪蛇の学校では、『サバの読み方』、『恥のかき方』を習うのよ。イタシは恥のかき方が上手かったわ」
 魚をどう読むのか、さっぱりわからなかったが、そんなアリスには全くお構いなしにカユシは話し続けた。
 「算数では、『学成り難しざん』『どん引き算』『ふっかけ算』『悪ぃ算』を習ったわ。それから古代、中世、近代の『ヒステリー』や地図を使って『痴理』を習ったのよ」
 「ヒステリーや痴理って何を勉強するの?」とアリス。
 「色々な出来事に青筋立ててキィーッて叫ぶのよ。『痴理』は腰を振って踊るの。大人に「見ちゃいけない」って言われたら合格よ」
 
 ずいぶん違うことを教える学校なのね、と思いながらアリスは黙ってカユシの話を聞いていた。カユシのフラフラはどんどん大きく揺れてきてなんだか楽しそうだった。
 「芸術も習うの」
 「わたしも絵を描いたり色々つくったりしたわ」とアリス。
 「海の学校でも『観写生』と『脂得(あぶらえ)』を習うの。イタシは『脂得(あぶらえ)』も得意だったわ」
 「カンシャセイって何なの?私は写生ならしたことあるけど?」
 「わたしたちが行って、みんなが見て、私たちにカンシャするのよ。それをカンシャセイっていうの。それから課外授業では外国語も習うのよ。ペテン語と偽医者(ギイシャ)語。これは私たちは習わなかったけど、周りのみんなが習っていたの」
 「難しい事を習うのね」
 アリスが言うと、カユシは満足してくるりくるりと回りながら歌い出す。
 
 〜美味しいスープ、きらきら輝く
魔女がゆっくりかき混ぜる
大膳を泣かせ仕入れたレシピ
夕餉に飲もう、魔法のスープ
夕餉に飲もう、魔法のスープ
  魔法のスープ(魔法のスープ)
  おおがまでつくる(おおがまでつくる)
  びょういん まぁでも 届けるスゥゥゥプ
  まほうのぉ、まじょのぉぉ スゥゥゥゥプゥゥゥ〜(※8)
 
 黙って見ていたけれど、まだまだ歌もダンスも続きそう。アリスはお辞儀をして「楽しいお話をありがとう。わたしはもう行かなくちゃ。さようなら」といって海を離れた。歩いているアリスの耳にずっと歌が聞こえていた。
 すぅぅぅぷぅぅぅ〜
 まほうのぉぉぉ〜すぅぅぅぷぅぅぅ〜
 
 
※6…グリフォンは空想の動物で、ライオンの身体に上半身は鷲という姿で「王家」の象徴ともされた。
神話の中では黄金を守る役目をもつ。最低でも年900万は守っていると思われる。
 
※7…19cイギリスではウミガメのスープは栄養価が高いが値段も高いため、子牛で代用したスープが発明された。これがモックタートルスープで、値段が安い。アリスでは「モックタートル」として登場。
はっきり言って偽セレブスープである。
ちなみにグリフォンと海亀モドキの名は「海原イタシ・カユシ」である。
 
※8…不思議の国のアリス」ではJAMES.M.SAYLESの流行曲「Star of the evening」のパロディ「すてきなスープ」として登場。


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