不思議の国のアリス

不思議の国のアリス(※1)
 
※1…明治43年に発売された丸山英観(薄夜)訳、
内外出版協会発売のアリスのタイトルは「愛ちゃんの夢物語」と言いました。
(他に美ィちゃん、まりちゃん、など翻訳者がかなり勝手な名前をつけていました。
内容も途中で別な話になったものもありました。)
 アリスのモデル、アリス・リデルは黒髪でした。
 

 2   U.水掛け論のドードーメグリ
更新日時:
2011/12/23 
 
 たくさん泣いて疲れたし、喉も渇いてふとテーブルを見るとさっきまでなかったビンが置いてある。「わたしを飲んで」と書いた札が付いていて、とっても綺麗なピンク色の水みたいなものが入っている。ふたを取ると果物のようなケーキのようなとにかく美味しい物の匂いがした。
 
 ごくんと一口飲んでみると、今度はぐんぐん体が縮んでぽちゃんと水の中に落ちた。
 「海だわ。しょっぱいもの」
 「大したものを産んどらんよ」と声がする。
 その声と一緒にアリスはざあっと流された。
 ふわっと体が浮いて、次に地面にドスンと落ちた。お洋服は塩水で濡れちゃった。
 「今日は落ちてばかりね」
 「なにも落ち着いておらんよ」とまた声がする。
 次第に明るくなってきて、周りが見えてくると何だかぐるぐる回っている。よくよく見ると色々な鳥が走っている。鷹や鳩や、それから知らない鳥までいる。
 
 「すみません…」
 声をかけても遠くに行って応えてくれない。
 アリスは学校でもリレーの選手をしているくらい足が早い。さっき応えてくれた変な姿の鳥を追いかけた。身体が大きくて足が短し、羽は小さくて飛べそうになかった。
 「あなたはなんていう鳥なの?」
 アリスが離れないように走りながら聞いた。
 「ドードーさ」
 その奇妙な鳥が答える。
 「みんな何をしているの?」
 「ドードーメグリさ」
 見るとみんな何かを話しながら走っている。走りながら羽をパタパタと動かし水をはらっている。その水が別の鳥にかかって濡れた。
 
 「男じゃないとだめなんだ」と鷹が言う。
 「話そう、協議しよう」と鳩が言う。
 「ジョテイは?」とコウノトリが聞く。
 「だめだ。男だけだ」と鷹。
 「それじゃイジできない」と別の鳥。
 「ダンケイハはイジになるなよ」とまた別の鳥が言う。
 その間も濡れた羽をバサバサ振って、他の鳥に水を掛けながらぐるぐると回っている。
 
 話の内容もよくわからないけど、男だの女だの、ダンケイだのジョケイだのただ言い合ってそれ以上話は進んでいないように見える。
 「どうして走りながら話すの?座って話したらいいのに」
 アリスが言うとドードーはふうとため息をついて答えた。
 「水掛け論のドードーメグリだからだよ」
 「なにをメグっているの?」
 「ミヤケとコウイさ」
 ミヤケとコウイっていうのがアリスには何だかわからなかった。ここはわからないことだらけ。でもミヤケで思い出した。三毛じゃないけど子猫を追っていたんだった。
 「ねぇ、それより猫を見なかった?」
 「えっ、何を見たって?」
 「ね・こ・よ」
 聞こえるように大きな声で言った。
 するとドードーメグリはピタッと止まるとすぐにてんでバラバラに走りだす。
 「猫が来るっ」
 「助けてっ」
 鷹も鳩もコウノトリもみんな逃げてしまった。
 鳥たちはネコが怖いらしい。
 「鷹もネコが怖いのかしら」
 不思議に思った時にはもう誰もいなかった。


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