4      瑞獣奇譚〜狛〜
 
 
妖狐は安心していたのです。
アズサノミコが妻を娶らねば女性たちの中では自身がコウゴウに次ぐ地位にあります。アズサノミコのお妃はなかなか決まらず、このまま独り身で終わると思い込んでいました。
 
しかしアズサノミコは素晴らしい女性と出会いました。
その時アズサノミコの中に宿る『麒』も『麟』との邂逅を果たしたのです。
 
ハマナスノヒメは『麟』を宿すお方です。
さぞ素晴らしい妃となるであろうと誰もが思い、中つ国は悦びに溢れたのです。
 
面白くないのは妖狐です。望みを邪魔する清らかなるヒメを憎みました。
ハマナスノヒメの入内が決まると目を吊り上げて悔しがりました。
 
ハマナスノヒメの入内の日、振っていた雨はお二人を祝うかのように上がり、太陽が顔を出しました。
妖狐は空を睨みました。するとそこに青龍王の喜び踊る姿があるではありませんか。
「さかしき蛇の王よ。地に降りたれば噛みちぎらむ」
妖狐は龍の王をヘビと言い馬鹿にしたのです。
瑞獣が今の中つ国に降りることがないと知っている妖狐は強気でしたしかも青龍王はまだ妖狐の存在に気づいていませんでした。
 
そして光り輝く美しいハマナスノヒメを見るとそこに妖狐が最も嫌うものを見出しました。
聖なる瑞獣の光です。
アズサノミコからも同じ光を感じました。
「あれなるは『麒麟』なり。我が望みのさわりなるもの」
ハマナスノヒメは妖狐の憎悪に気づいておりませんでした。まさか清らかであることが憎まれるなど思いもよらぬことでした。
 
ハマナスノヒメが入内なさってからというものアヤメノキミはその後ろに着くこととなりました。ヒメを抜いて自分がその地位に居るべきだと妖狐は思っていたのですから面白くありません。
そこで傀儡をアズサノミコのお住まいになる春の宮へ送り込み、お二人の周囲を見張らせることとしたのです。
 
妖狐はハマナスノヒメに害なそうとし、ヒメの中に宿る『麟』は不穏な空気を察し、その力をヒメのために使い、守ろうとしていました。
しかし不徳の時に麒麟の力は弱まるばかりです。
 
ある日春の宮に迷い犬がやってきました。
犬は八匹の子犬を産みました。その内小さな二匹をアズサノミコとハマナスノヒメが引き取りました。
『麒』は小さな犬に語りかけました。
「善き狛となりてアズサノミコを守るべし」
『麟』は小さな犬に語りかけました。
「優しき狛となりてハマナスノヒメを守るべし」
それから後、二匹の犬は麒麟に応えるように春の宮に入り込もうとする妖狐の放つ蟲を蹴散らしたのです。
 
その後も動物たちは春の宮を守ろうとしました。二匹の狛が天寿を全うしたのちも新たな動物、犬と猫が来て狛となり、アヤカシが近づかぬようにアズサノミコ、ハマナスノヒメ、そしてのちにお生まれになったヒメミコトをお守りしたのです。
終わり
 
 
 
 

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Last updated: 2012/9/25