四聖と呼ばれる瑞獣のうちの霊亀は天には向かわず地に深く潜み善き世になるまで眠ることにしていました。
『徳』の失われつつある中つ国に居て霊亀は地の奥深くに流れる水の清らかさに救われておりました。
しかしその水脈すら穢れつつあるのです。
目を覚ますことはめったになく、ただ眠っている霊亀ですが、時折水脈の上を何かが通り抜けた時だけうっすらと目を開き、それが何かを確かめるように耳を澄ますのでした。
「甘露のごとく我が肌を潤すは誰ぞ。ああ、こころよきみづよ」
霊亀が目を覚ます時はいつもある方がその上の道を通る時でした。
その方、アズサノミコが心にかけているものの一つが水でした。
水は人を潤し、田畑を実らせ、草木を育てる雨を降らせます。
「さてもきらきらしきミコよ。甘露のオオキミなるか?」
霊亀はミコが水脈の上を通るたびにうっとりとし、その潤いに身をゆだねるのです。
その甘露が暗い重さを霊亀にかける時がありました。
そんな時霊亀は甘露のオオキミを苦しめるものは何であろうかと思い少し寂しく、そして悲しくなるのでした。
終わり
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