貴いところから放たれたお利口な鴨さんがいました。暫く自由に飛んでいましたがお腹がすいてきたころ、りんごのようなほっぺをした太めだけど可愛らしい娘さんが「秋のおうちに来ない?ご馳走するわよ。」と言いました。
女の子は言葉遣いは汚かったけれど、悪いことを考えられる能力もなさそうだったので鴨は言われたとおり秋のおうちに行くことにしました。
秋のおうちのご主人は鯛国にいって留守でした。りんご姫に連れられて玄関を開けるとなんと玄関が階段になっていました。
一段目を上ると、強烈な寒気が辺りを覆いました。
りんご姫は「今おかーさみゃがミーティングをしているの。この家は夏でも朝は涼しいのよ。」と言いました。
二段目を上ると、気の弱そうな女の子がしくしく泣きながらしきりに謝っている声がしました。
りんご姫は「妹があなたのために、カツをあげているの。妹はカツ揚げの名人なのよ。」と言いました。
三段目を上ると、なんだか男の子の姿が見えたような気がしました。するとりんご姫は「今見たことは誰にも話してはだめよ。ショクシツされて、変なところへ連れて行かれるわよ。」とドスの効いた声で言いました。鴨さんは利口でしたのでそれ以上何も言いませんでした。
ようやくりんご姫のお部屋に着くと、部屋の中で若い男の人がだらしなく寝そべっていました。
りんご姫は「彼は働きたくないの。ジョセイミヤケで養うのよ。」
と意味不明のことをいい、部屋から出て行かせました。
鴨が部屋に入るとりんご姫は急にそわそわし、「あなたに上げるサーモンとバウムクーヘンの出来具合を見てくる。」といって台所に行ってしまいました。
するとどうでしょう。一匹のテンジクネズミが入ってくると「鴨さん。このおうちで、動物が可愛がられている映像が公開されたことはないんだ。君も僕みたいに寒中水泳させられたくなかったら春のおうちにお行き。そこでは、殺処分直近の動物達でさえ救ってくれるんだよ。」と言いました。
それを聞いてあわてて鴨は窓から外へ飛び立ちました。
ふと後ろを見ると、別の窓からりんご姫が巨大な包丁を振りかざし「ちくしょう。久しぶりにローストと鴨南蛮が喰えたのに。」
と叫んでいました。りんご姫の口は耳まで裂け、眼は釣り上がり、
髪は逆立ち、まるで安達が原のようでありました。
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