むかしむかしのことじゃった。ある山奥に老婆が一人で住んでおった。ある雪の日の夜、それはそれは雅やかで美しい姫君が、老婆のあばら屋を尋ね一夜の宿を求めましたとさ。
こんな山奥に、見たこともない麗人が現れたので老婆は魂消たが、囲炉裏の火を起こし、心ばかりのきのこ汁を差し上げた。姫君はそのお礼にと様々なお話を聞かせて下さったのじゃった。
万葉集から新続古今集に至る歌道の精髄に始まり、さる高貴な王子の流離譚、黄金鯰の愉快なお話、小さなお皿と女狐の身も凍りつく怖い話等、姫君の素晴らしいお話は尽きず、老婆は時のたつのを忘れ聞き惚れたが、昼間の農作業の疲れから不覚にも寝入ってしもうた。
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朝、老婆が眼を覚ますと、老婆の肩には布団がかかり、姫君の姿はどこにも見えなんだ。あわてて外に飛び出すと。家の前から山頂にむけて兎の足跡のみが残っており、足跡は山頂でぷっつりと消えておったそうじゃ。
きっと、姫君はお月様のお使いで、月に戻られたのでありませう。
めでたし。めでたし。
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