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4  「にんげんをかえせ」   orienthouse  
 
 
にんげんをかえせ つまをかえせ
つまのえがおをかえせ つまのけんこうをかえせ
 
にんげんをかえせ むすめをかえせ
むすめのえがおをかえせ むじゃきなこころをかえせ
 
白いコートを翻し、さっそうと職場に向かうあなたを
「あなたのその力をお国のために」とくどいた
ためらうあなたに「母は苦労した人、あなたを同じ目にあわせはせぬ」とくどいた
「一生おまもりします」とくどいた
そして赤坂の杜につれてきた
 
今、あなたの目に輝きはない
あなたの口に笑みはない
昔のさっそうとした歩みはない
 
あなたの力は封じ込められた
あなたを守ると思った人は、あなたを庇わなかった
あなたがやっと産んだ娘は価値を否定された
あなたはついに力尽きた
 
倒れたあなたにさらに矢が放たれる
「私は上手くやったわ」と近くから嘲笑がかぶさる
「勝手鬱」「ディスチミア」と診もせぬ薬師が診断する
「実家に帰れ」と娘の将来の師がつぶやく
「皇后失格、離婚しろ」と文屋が書き続ける
やっと頭を持ち上げかけると、さらに矢が放たれる
 
手負いの獅子のあなたが、それでも守る子獅子にも
勢子が放たれた
「自閉症」「おじぎしない」「わらわない」「女なんて価値がない」「不登校児」
子獅子にも遠慮なくことばの矢が放たれる
義理の身内から歯をむき出した猟犬をけしかれられる
あなたはそんな子獅子をわが身で庇い、血を嘗め続けた
そんな姿がおかしいと、さらに文屋たちは嗤った
 
今わたしは血の涙を流している
そんなあなたを救えぬ非力さに
我がみうちがあなたを鞭打つ悲しさに
むすめも守れぬふがいなさに
「一生お守りします」の言葉のむなしさに
 
それでもただただ生きていてほしい
いつか「あのときは大変だったね」と笑いあえる
そんな日が来ると信じて
 


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